【住宅の屋根】知っておきたい屋根の種類とメリット・デメリット【12選】
街を歩いていると、さまざまな住宅屋根を目にします。
でも、それぞれの屋根の特性を知っている方はそう多くないですよね。
はじめての家づくりやリフォームの際、決めることが山ほどある中で、「どんな屋根にしようか」をご自身で決めるのはそう簡単ではありません。
ただ、この先20年、30年と長く安心して暮らせる住まいを実現するためには屋根選びもひとつのポイントとなりそうです。
この記事では、全部で12種類の屋根の形状と特徴について解説しています。
気に入ったデザインで、なおかつ求める機能が備わっている屋根はどれなのか、施工会社さんと相談する際のヒントとなる内容が詰まっています。
ぜひ読んでみてくださいね。
左右の屋根はほぼ同じ長さで構成されており、妻側(屋根が交差する稜線部を指す「棟」に対して垂直になる側面/外壁が三角に見える面)から見ると二等辺三角形のような形をしています。
雨水の排水にも効果的で、日本以外でも多用されており、建築スタイルを選びません。
日本の住宅屋根の半数近くが「切り妻屋根」とされているほど、日本で最も一般的な屋根といえます。
新潟県のような豪雪地帯はもちろん、台風の影響が大きい地域、海沿いのエリアなど日本各地で取り入れられています。
かつては格式の高い屋根とされていたので、神社など歴史のある建造物にも切り妻屋根が多く使われています。
◎切り妻屋根のメリット
・雨漏りしにくい
・雨水を2方向に流すため排水力に優れている
・勾配があるため屋根に積もった雪が落下しやすい
・雪の落下位置を予想しやすい
・屋根の形状が複雑であると風雨の影響を受けやすいが、シンプル形状のため台風や暴風雨の多い地域にも適している。
・施工コストを安価に抑えられる
・和風、洋風を選ばない家づくりができる
・屋根の面が広いため太陽光パネルを設置しやすい
△切り妻屋根のデメリット
・一般的な造りのためオリジナリティを出しにくい
・妻側(外壁が三角に見える面)が雨風・日の光にさらされるため劣化しやすく、定期メンテナンス工事が必要
・屋根の方向によっては太陽光パネルでエネルギーを作りにくい場合がある
■切り妻屋根の著名な建物
根津美術館(東京都)
安曇野ちひろ美術館(東京都)
塩沢町立今泉博物館(南魚沼市)
新潟ふるさと村アピール館(新潟市)
ほぼ正方形の建物に特化したピラミッド型の屋根で、一般住宅ではあまり使われず主に寺院などで用いられます。屋根の4面がきれいな三角形で構成されています。
屋根の傾斜角度は一定で均等に傾斜しているため、雨水や雪を4方向に分散してくれます。
4角造り以外に、6角形の「六柱」、8角形の「八柱」と呼ばれる造りがあります。
※宝形(ほうぎょう)と表記される場合もあります。
◎方形造りのメリット
・屋根を多面的に感じられる
・屋根の存在感を高められる
・全面に屋根を確保できるため、雨や太陽の光を遮りやすい
・4方に屋根があるため、外壁の劣化を防げる
・重厚感がある
・個性的で他の住宅と差別化できる
△方形造りのデメリット
・屋根が交差する「棟」部分から雨漏りがしやすい
・雨雪の落下地点を予想しづらい
・屋根面積が狭く、太陽光発電システムを導入しづらい
・一般的な屋根よりも棟が長く、胸を支える支柱本数が多いため、コストと施工期間がかかる
■方形造りの著名な建物
浄土寺(兵庫県)
法隆寺(奈良県)
長谷寺五智堂(佐渡市)
四方向に均等に傾斜した平らな屋根ですが、まるっきり勾配がないわけではなく、雨水を排水するための傾斜がわずかにかけられています。
平らな「陸屋根」に対し、傾斜のある「切り妻屋根」や「寄棟屋根」を「勾配屋根」とまとめて呼ぶ場合もあります。
風や雪の負荷に強いため、降雪量が多い地域で落雪防止を目的に採用されています。
一般的には鉄筋コンクリート造りの建築に用いられます。
◎陸屋根のメリット
・フラット形状なので、雪下ろし作業を減らせる
・積雪の荷重耐力が高い
・最上階スペースを有効に利用できる
・屋上利用が可能
・外観がスタイリッシュな印象になる
・安全に定期点検やメンテナンス工事を行える
△陸屋根のデメリット
・勾配屋根と違い、雨水が自然と流れていく構造ではないため、雨漏りリスクが高い
・定期的な排水箇所の手入れが必要
・斜線規制を受けやすい
・最上階に日射熱が伝わりやすく、最上階の室内が暑くなる
・屋根裏スペースを確保できない
・雪が自然と落ちていかない
■陸屋根の著名な建物
国立西洋美術館本館(東京都)
横浜マリンタワー低層部(神奈川県)
十日町情報館(十日町市)
四方に傾斜面が均等に広がっている屋根です。
各面のつなぎ目が棟に寄せ集まっていることが「寄棟」の由来。
世界各国で一般的に使われている住宅屋根のひとつ。
日本では切り妻屋根に次いで多用され、特に東日本で一般的に見られるとされています。
切り妻屋根と比較しても、雨水の排水に優れ、風や雪の負荷に対しても強い構造なので、寺院や城、神社などでもよく見られます。
◎寄棟屋根のメリット
・4方向に屋根が向いているため、方位を選ばず住宅を建てられる
・高さ制限がある立地に有利
・雨雪が4方向に分散するため、積雪・降水に強く耐久性に優れる
・和風、洋風を選ばない家づくりができる
・重厚感のあるデザイン
△寄棟屋根のデメリット
・4方向に屋根面があり、棟や雨樋など材料を多く使うため、建設コストが高め
(ただし耐久性が高いためトータルコストがかからない利点もあり)
・屋根裏スペースが確保しにくい
・頂上部の棟(大棟)と傾斜面(隅棟)4面の5つが組み合わさっているやや複雑な構造のため、風の影響を受けやすく、雨漏りリスクがある
・屋根の方角が4方に分散するため、照射効率の良い方向に置ける太陽光パネルの枚数が限られる。そのため太陽光パネルの設置にはあまり適さない
■寄棟屋根の著名な建物
正蔵院(奈良県)
東大寺大仏殿(奈良県)
種月寺本堂(新潟市)
傾斜面が二重になっている屋根です。
屋根の上にさらにもうひとつ小さい屋根がついたような形状をしています。
上層の小さな屋根には換気や採光の役割があり、昔ながらの家屋ではかまどや囲炉裏の煙を小さな窓から排出していました。
日本に古くから根付いている形状です。
◎越屋根のメリット
・天井が高くなり、多方向からの採光が可能
・見た目に存在感、迫力がある
・通気口は高所ほど高い効果が得られるため、通気性に優れている
△越屋根のデメリット
・工法が複雑な形式なので、雨水侵入のリスクがある
・建設、メンテナンスにコストの費用がかさむ
■越屋根の著名な建物
富岡製糸場(群馬県)
横須賀造船所(神奈川県)
吉乃川酒造常倉(長岡市)
先端部分が前方に張り出している屋根です。
切り妻屋根の片面を短くしたような形状で、ひらがなの「へ」のような形をしています。
2面の屋根が段違いになっている造りもあります。
◎招き屋根のメリット
・(2つの屋根に段差がある招き屋根の場合)屋根が段違いで支え合う構造のため強度が高い。特に耐風性がある
・平屋でも2階建てのようなゆとりのある空間が生まれる
・片側の壁が高くなるのでロフトの設置に向いている
・アシンメトリーな見た目が個性的
・和風、洋風を選ばない家づくりができる
・デザイン性と構造がシンプルなので、施工費用を抑えられる
・屋根の一面を広く設計できるため、太陽光パネルの設置に向いている
△招き屋根のデメリット
・太陽光パネルの設置に十分なスペースが1面のみ
・屋根の方向によっては太陽光パネルでエネルギーを作りにくい場合がある
・(2つの屋根に段差がある招き屋根の場合)壁と屋根が設置している部分に隙間が空きやすく、雨漏りがしやすい
■招き屋根の著名な建物
北海道大学農学部植物園・博物館(附博物館鳥舎)
中央部分がV字型になっている屋根です。
中心部に向かって低くなっているため、真ん中に谷樋を設け通水路としています。
スタイリッシュなデザインが魅力。
両側に傾斜した屋根が広がっているため、換気や採光も促進されます。
◎バタフライ型屋根のメリット
・個性的なデザイン
・太陽光パネル設置に十分なスペースを設けられる
・谷部分にスノーダクトを設置できる
・建物周りに雨雪が落ちる心配がなく、つららができにくい
・雪に強い屋根「無落雪屋根※」と相性が良い
※無落雪屋根:雪を落とさず、自然に溶かすことで処理できる機能を備えた屋根
△バタフライ型屋根のデメリット
・屋根の窪み部分に雨雪がたまりやすい
・雨雪がたまる影響で建材が傷みやすく、定期的なメンテナンスが必要
■バタフライ型屋根の著名な建物
ペイネ美術館(長野県)
軽井沢夏の家(長野県)
勾配が途中からさらに折れ曲がっている屋根です。
別名、ギャンブレル屋根、マンサード屋根。
(切り妻タイプに腰折れがある屋根を「ギャンブレル」、寄棟タイプに腰折れがあるものが「マンサード」。
日本ではこれらをまとめて「腰折れ屋根」と呼ぶことがあります)
中央部分に比べて左右の傾斜が急になるため、水はけが良く、建物への負荷分散に効果的です。
斜線制限や日影制限(建築基準法に基づき、家やビルを建設する際の条件)のため、腰折れ屋根が用いられるケースがあります。
◎腰折れ屋根のメリット
・勾配が急なため、雨雪が溜まりにくい
・狭い土地でも採用しやすい
・屋根裏部屋を作れる
・個性的なデザイン
・欧米に多く見られる形状なので、洋風のデザインと相性が良い
△腰折れ屋根のデメリット
・勾配が急になる屋根同士の継ぎ目から雨漏りが発生しやすい
・メンテナンスの際に足場仮設が必要となり、費用がかさむ
・通気スペースが確保しにくい
・屋根が曲がる部分に湿気が溜まりやすく、劣化につながる
・太陽光パネルの設置スペースを確保しにくい
■腰折れ屋根の著名な建物
レースホース牧場(北海道)
同志社アーモスト館(京都府)
鋸の歯のような形状を持つ屋根です。
垂直部分が多いため、採光面積を大きく確保することができ、績・織物・染色関係の産地に多く見られる工場建築として採用されてきた歴史があります。
新潟県では織物業が盛んな五泉市に鋸屋根の工場が多く見られます。
一般住宅ではあまり採用されない形状です。
◎鋸屋根のメリット
・屋根を北側に設定すると光量の変動を少なくでき、明るさを保てる
・騒音を抑えられる
△鋸屋根のデメリット
・凹み箇所に雨雪が溜まりやすい
■鋸屋根の著名な建物
旧株式会社金芳織物工場鋸屋根工場(群馬県)
MAEHARA 20th(群馬県)
切り妻屋根の片面を長く、反対面を短くし、高さ違いで設置した屋根で「下屋(げや)」とも言われます。
上層と下層の屋根の間に窓を取り付けられるため、換気や採光面でメリットがあります。
◎差し掛け屋根のメリット
・屋根裏にスペースを設けられる
・断熱性、通気性、耐風性が高い
・太陽光パネル設置に十分なスペースを設けられる
・アシンメトリーで個性的な外観デザイン
・室内へ雨水が浸入しにくい
・日光による外壁ダメージを防止できる
△差し掛け屋根のデメリット
・接着部分に水が溜まりやすい構造上、屋根同士の間から露出している外壁から雨漏りがしやすい
・屋根が増える分、施工とメンテナンス時に費用がかさむ
■差し掛け屋根の著名な建物
盛田牧場二号廏舎(青森県)
トチセン(旧足利織物)赤レンガサラン工場(栃木県)
上部に「切り妻」、下部に「寄棟(よせむね)」を合わせた形状の屋根です。
伝統的な和風建築によく用いられ、建物に格式や高級感が出ます。
日本、中国、韓国、ベトナムなど東洋の寺院でよく見られ、日本では最も格式が高い形式として重んじられていました。
古くは日本の一般住宅でもよく使われていました。
◎入母屋屋根のメリット
・耐風性が高い
・4方に軒が下がっているため雨が当たりにくく耐久性が高い
・屋根裏に空間があるため通気性が良い
・日本風のデザインにマッチする
△入母屋屋根のデメリット
・形状が複雑なため建築、メンテナンス時に費用がかさむ
・接合部分から雨が侵入しやすいため、雨漏りリスクがある
・屋根の重量が増えるため耐震性が低い
■入母屋屋根の著名な建物
新薬師寺本堂(奈良県)
三十三間堂(京都府)
天安門(中国)
一方向に屋根の傾斜が流れる特徴的な形状を持つ屋根です。
近代的なデザイン以外にも、太陽光パネルの取り付けや排水のしやすさも特徴です。
狭小地や平家などで居住空間を広く確保するために適し、またデットスペースを活用しやすく、屋根裏に収納スペースや趣味のスペースを設けられます。
◎片流れ屋根のメリット
・狭スペースでも居住空間を確保できる
・屋根裏ペースを有効に使える
・シンプル構造のため、建築・メンテナンスコストを抑えられる
・モダンな雰囲気の建物にマッチする
・太陽光パネルを設置するスペースが十分に設けられる
・平家でも高い位置に窓を設けられる
△片流れ屋根のデメリット
・軒が降りていない3面は紫外線や雨風の影響を受ける。そのために屋根と外壁の接合部が劣化しやすく雨漏りリスクがある
・雨どいが一方向のみのため、雨どいに負担がかかる
・換気口が一方向のみのため通気性が弱く、湿気がたまりやすい
・北向きに屋根の勾配を設ける場合、太陽光をほとんど得ることができない
■片流れ屋根の著名な建物
小山市文書館庁舎(栃木県)
一行院千日谷会堂(東京都)
屋根材選びのポイントと対策
自然災害が多い日本で暮らすには、「台風で屋根が破損してしまった」「地震が起き、屋根の重みで建物が潰れてしまった」などの被害を少しでも起こさないための対策が必要です。
また日常的に雨や風、雪で塗装が剥がれるということも避けなければなりません。
昨今では耐震性を高めるために強度が高く、そして軽量化された屋根材が注目を集めています。
「陶器瓦」「セメント瓦」「スレート」や、金属屋根と呼ばれる「ガルバリウム鋼板」「ジンカリウム鋼板」「ステンレス」「トタン」など、屋根材にはいくつもの種類があります。
屋根の形状以外に使われる屋根材によって、耐久性や屋根自体の重量が変わるため、それぞれの強度や特徴、価格帯、メンテナンスの頻度とコストなどについて、すまいの専門家にしっかりと確認しておくと安心です。
まとめ
屋根には実に様々な種類があることがわかりました。
シンプルな構造であるほどつなぎ目から雨漏りするリスクが避けられ、建築・メンテナンス時のコストダウンにつながるというのは「屋根の常識」と言えます。
そして新潟県の場合は、降雪量に対する強さ、雪下ろしのしやすさもポイントになります。
太陽光パネルで創エネを検討されている方には、屋根の大きさや設置面についても十分に検討が必要です。
それぞれの種類のメリットとデメリットもご紹介しました。
ただ、リスクとされている面でも、建材選びや下地作りでカバーできる場合も多くあります。
外観デザインはもちろん、機能面でも私たちの日々の暮らしと直結している屋根。
デザイン、機能、住環境、予算など、さまざまな観点からご自身のベストがチョイスできますように!
(監修/株式会社家根惣)